【エッセイ】薄暗い公園で淡々と老婆がしていたこと

近所の公園に娘と遊びにいったときの話です。

 

高架下にある狭い公園で、薄暗く、どちらかと言えば公園というよりも空き地といったほうが伝わりやすいかもしれません。遊具もすべり台と砂場があるのみです。子供たちにもあまり人気がないようで、いつもひっそりとしています。

 

遊具を独占できるので、娘はその公園を気に入っています。僕が止めない限り、ずっと遊んでいられるようです。

 

その日も娘が楽しそうに遊んでいるのを眺めていると、なにかを見つけたようです。よく見ると、それはたばこの吸いがらでした。

 

僕は慌てて娘の手からたばこの吸いがらを奪い取ると、「危ないからさわっちゃだめだよ」と言いました。

 

近所の人が公園で吸っているらしく、いたるところにそれが落ちています。一瞬たりとも目が離せない状況になりました。

 

しばらくすると、老婆が公園にやってきました。僕は少し嫌な予感がしました。理由もなく陰気な公園に1人で来るというのはなにか理由があるはずです。

 

老婆はのっそりとした足取りで公園を歩き回っていました。娘と僕と老婆の3人が奇妙なバランス感覚で公園に存在していました。

 

公園って大勢の人がいると全然気にならないのに、自分と誰か1人みたいに少数だとなんとなく気まずい感じがしますよね。

 

僕はなんとなく老婆の動向が気になりました。

 

そして見てしまいました。

 

彼女は、淡々とトングでたばこの吸いがらを拾い、ビニール袋にしまっていました。

 

その表情にはまったく何の感情も見てとれませんでした。僕と目を合わせることもありません。怒ってもいないし、悲しそうでもないし、嬉しそうでもなく、楽しそうでもありません。

 

ただ、ゆっくりと無表情でたばこの吸いがらを拾っています。とりこぼしがないように、隅々まで、公園脇の茂みの中までくまなく探しては、そっと見つけた吸い殻を大切そうにしまっています。

 

すべてのエリアをひろい終えると、彼女はゆっくりと公園を後にしました。

 

公園は、とても安心できる空間になりました。

 

組織的にやっているわけではなさそうだし、役所の人でもなさそうです。おそらく何の見返りもないでしょう。

 

想像力の差、と思いました。

 

公園で吸い殻をひろう老婆の想像力。

 

老婆の過去になにがあったんだろう、と僕は想像してしまいました。

 

もしかしたら、とても悲しいことがあったのかもしれませんし、なかったかもしれません。ひまつぶしでやっているだけかもしれません。

 

たばこの吸いがらがあるなあ、やだなあと思っていただけの自分も、捨てていった人とそんなに変わらないのかもしれません。

 

想像力を実行に移せるか。

 

老婆に学ぶべき点は多いと思いました。